2012年08月22日

【書評】2022−これから10年、活躍できる人の条件[神田昌典]




前回、賢慮と言う言葉が出てきた。流動的な状況を逆手に取り勝ちを収める能力ということであるが、この賢慮は、戦いにおいて発揮される能力に限られているわけではなく、むしろ毎日の生活のあらゆるところににじみ出るもので、外に品格、内に賢慮というようなもののようである。

先週取り上げた『戦略の本質』に、賢慮型リーダーシップを持ち合わせている人としての特質が書かれているところがあるので、そこを改めて書き出してみると以下のような能力を持つ人物が賢慮型リーダーの人物像に当てはまる。(454頁)、




[賢慮型リーダーの持つ5つの能力]
1.他者とコンテクストを共有して共通感覚を醸成する能力
2.コンテクストの特質を察知する能力
3.コンテクストを言語・概念で再構成する能力
4.概念を公共善に向かってあらゆる手段を使って巧みに実現する能力
5.賢慮を育成する能力

コンテクストというのは文脈という訳語があるが、周りの常に変化する状況のことである。ブログで取り上げた空気は「暗黙の了解」のようなもので固定的だが、コンテクストは常に流動的で、それを作り出すのはその場にいる人間の相互作用である。そのため決まったパターンと違う流れになるのが普通である。

この賢慮型リーダーは周りに合わせて日和見するとか、変わり身が早い人ではない。先週も書いたように賢慮を持つリーダーは「自らの哲学、歴史観、審美眼を統合したビジョンに基づいて、直感を大きな潮流と関係付け、現実の本質を洞察」(451頁)できる人だからである。

そして日本書のようなものを読んで読書会に参加するのはまさにこのような洞察ができるようになるトレーニングなのではないかというところで先週は終わったのだが、この『戦略の本質』はいかにもエグゼクティブが読みそうな本である。というのもこれはまさにエグゼクティブが大好きでこの数ヶ月書店で平積みベストセラーになっている『失敗の本質』の続編だからそうなので、読み解いて自分の血肉とするにはいま一つ固すぎる。

同様のことを分かりやすく説明してかつ読書会と結びつけている本はないかと見渡したときに出会ったのが今日紹介する神田昌典氏の『2022年−これから10年活躍できる人の条件』である。

今日は日本書候補の紹介というより、読書会に参加することで一体何が得られるのかということをじっくり考えてみたい。

神田氏は2000年代前半に大変勢いのあったビジネス書の著者で、その影響はすさまじいものがあり、彼の処女作のせいで全てのビジネス書のカヴァーがショッキングピンクになりそうな勢いであった。その後、人生のサイクルについての本などを出して少しビジネスを一段階抽象的なところから見るようになった後、しばらく新刊を見ないな、と思っていたところに今年の春出たのが本書である。

これによると神田氏はこの数年、自身のガンと戦っていたようで執筆活動ができなかったようである。そしてそのせいなのか、ビジネスは一人傲慢にぶっちぎりでやるものではないということや、いろいろな人とつながるということの大切さ、そして以前出した人生のサイクルとも結びついて特に30代の世代が伸びるにはどのようにして外の世界とつながるべきかを書いたのが本書である。

神田氏は自身の周りにいる人たちが読書会を行っているようであり、第五章で一節、読書会で何が得られるのかについての考察がある。

読書会というと、最近実に様々な読書会がいろいろなところで開かれているが、出たことがある人は「名刺交換会だった」「知らない本について話され苦痛だった」「昔語りをされてしらけてしまった」などなどいろんな不満がある。

しかし、神田氏はもっと読書会をポジティブな場と考えており、これは私たち「日本書を選定して読みあう会」もまったく同様に考えている。

神田氏によると、誰でも教え学びあえる機会が読書会であり読書を単に個人が面白かったと思う行為ではなく、最終的に社会に役立つ行動につながる(190頁)ものであると言う。

彼らの会には私たち同様ファシリテーターがいるが、ファシリテーターを勤めることは単に進行役をすることではなく、「異なる意見を取りまとめ、問題解決の方向性を見出していくプロセスを短期間に何度も何度も経験する。まさに変革リーダーになるための最適なトレーニングなのだ」(193頁)と言う。

彼のいう変革リーダーとは、別名セルフ・トランスフォーミング・マインドを持つリーダーで「自己変容型マネージャー。過去の成功体験を持っていながら、事業が立脚している基盤ですら、疑問視できる能力を持っている。問題が生じた場合、対症療法ではなく、根本的に治療できる・・・背景にある市場の状況変化を読み取り、必要とあれば自らの事業を否定」(173頁)するリーダーのことで、これはまさに賢慮型リーダーのことである。そしてアメリカのマネージャーを調べた調査ではわずかに1%以下しかこの自己変容型マネージャー、あるいは賢慮を備えたマネージャーはいないという。

ここでなぜ読書会に参加して、特にファシリテーターを勤めることがこの自己変容型リーダーになる絶好の機会となるか理由が明らかになる。

そもそも読書会に集まってくるメンバーは世界に対して共通の理解を持っているわけではない。それでも集まることが有意義であることを各メンバーに共通して感じさせ(賢慮型リーダーの持つ5つの能力の1)、仕事も年齢も家庭環境も違う人間が集まっているにもかかわらず共通して何かを理解してもらうには、どんな方向性でどんな言葉を使えばよいかを素早く考え(賢慮型リーダーの持つ5つの能力の2)、本について発表するメンバー、あるいは聞き手のほかメンバー達がありありと実感できるような意味に組み替え(賢慮型リーダーの持つ5つの能力の3)本の本質を引っ張り出し各自が役立つ形で家に持ち帰れるようにし(賢慮型リーダーの持つ5つの能力の4)、最終的に参加したメンバーがいつかは自分たちでファシリテーターができるように促す(賢慮型リーダーの持つ5つの能力の5)のが、読書会のファシリテーターの役割である。

ファシリテーターの役割はまさに賢慮型リーダーの役割そのものであり、優れた読書会ファシリテーターを目指せば必然、賢慮型リーダー、あるいは神田氏の言葉では自己変容型リーダーになれる可能性が高まるということである。

神田氏はこれから10年の間に、これまでの企業の枠を超えた自己変革型リーダーがぼこぼこ現れ、日本の未来は明るいものとなると信じている。ただしそのためには、特に30代のこれからまだまだ変われる世代が強い信念を持って街中あるいはネット上に存在するいたるところでリーダーシップを発揮できる場を上手に使っていくことが条件である。

本書は当会が考えている読書会の役割を明瞭に代弁してくれている。また、当会の読書会に参加する方に限らず、他の趣旨の読書会に参加する方にもぜひ、本書を一読をしていただければ、これまでと違って明瞭な意識を持って読書会に望めるようになると思う。将来について悲観的なビジネス書が多い中、具体的な道のりが書かれた希望にあふれた一冊。



(文責 菅井英明)

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■本書は日本書候補ではなく、会の会員となり特にファシリテーターをして見たい型に推薦している図書です。。

■会では第一回投票で上位に入った本の書評を中心としたフリーペーパーの刊行を予定しています。とても素晴らしい執筆陣にお願いできました。古事記・日本書記・万葉集はハワイ出雲大社の宮司、天野大也氏、第二位の大空のサムライは、不動産投資家で著名な加藤ひろゆき氏、第三位の夢をかなえるは、まぐまぐで人気の『政治の本質』を執筆している松本久氏にお願いしました。もうすぐ印刷される予定です。お楽しみに!

■また、会の趣旨にご賛同いただける協賛団体も募集しております。フリーペーパーの中で団体のロゴをご紹介させていただきます。詳細は会のメールへご連絡ください。

■書評ライターを募集しています。掲載ガイドラインがありますので、興味のある方はご連絡ください。日曜日に掲載いたします。お礼に二冊お好きな日本書をプレゼントいたします。

■会では会員を募集しています。会の運営に参加したい方、読書会のファシリテーターをしたい方、ぜひ事務局にご連絡ください。

■過去の書評記事で関連するカテゴリーのものです。どうぞこちらもご覧ください。

[組織論・リーダー論]

堺屋太一『組織の盛衰』
http://nihonsho.seesaa.net/article/286144705.html

高坂正堯『文明が衰亡するとき』
http://nihonsho.seesaa.net/article/251212230.html

山本七平『帝王学−貞観政要の読み方』
http://nihonsho.seesaa.net/article/253607633.html


[勝負・戦略について]
野中郁次郎ほか『戦略の本質』
http://nihonsho.seesaa.net/article/286820771.html

米長邦雄『人間における勝負の研究』
http://nihonsho.seesaa.net/article/272709253.html


中部銀次郎「ゴルフの神髄新編もっと深く、もっと楽しく」
http://nihonsho.seesaa.net/article/268206428.html


posted by 日本書を選定して読みあう会 at 00:00| Comment(0) | 会員用推薦図書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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